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山本信明歌集『そして海へ』
¥2,750
第34回船橋市文学賞(短歌部門)を受賞した「 そして海へ」(30首)を含む渾身の第一歌集。 論考「岡井隆と塚本邦雄の確執」も併録。 【8首選】 生きている限りは青い大空に閉じ込められて雨にも濡れる いつか来る別れの時の悲しみを知るかのような産声を聴く 見送ってもう逢えぬなら六月の額の汗は私にください 生き終えて地に横たわる夏蟬の黒目がずっと風を見ている 一生分の吐息のごとき白煙の昇りゆくなり 父の火炉より 父として厳しかったか次の世は褒めて育ててやるよ必ず 釣りあげし魚の血抜きは南方に沈みし船の鉄の匂いす 毛嵐の上総湊に才巻海老(さいまき)のかごを引き上げ鯛待つ海へ
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斎藤美衣歌集『世界を信じる』
¥2,970
まっすぐな心がまっすぐに世界を見つめる。生きるとは、手足を動かすこと。歩いて、食べて、誰かを思うこと。世界に触れて、世界の一部になること。齋藤美衣の歌は、心と体と言葉と歌が一体になる喜びを伝えてくれる。(大松達知・本書「帯文」より) 【5首選】 名刺二枚かさねて仕舞ふ ゆふがたのかばんの底でもう落葉だらう 冬をする けふは一人で冬をする 金木犀はだまつてなさい 母さんと呼ばれてはい、と返事して。返事して、返事して、もう夕映え 右足のいつもほどける靴紐を結びなほして世界を信ず きみの書く「衣」の字はいつもやはらかい わたしはすこしやはらかくなる
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吉田久枝歌集『林の朝はゆるやかに明く』
¥3,300
赤き衣(きぬ)木の間に見ゆる太極拳 林の朝はゆるやかに明(あ)く 都会にありながら水郷の景観が楽しめると言われる水元公園。作者は同い年の夫と共にもう長い間、早朝の公園散歩を続けている。メタセコイアの並木を仰ぎ、水鳥の声に耳を澄ます。互みに思いあうこと、自然体であることの大切さ。悠揚迫らぬ暮らしぶりから紡ぎだされる歌の言葉をしみじみ味わっていただきたいと思う。久々湊盈子(本書「帯文」より) 【5首選】 紙芝居ぢつと見つめるモノクロの写真の子らにわれを見てをり 虚空青くしづまる羽田ひかうきは翼揃へて地に伏してをり 水槽に夕影さしてたまゆらのきらめき見する和金「江戸あかね」 青空に映えて悲しき色となり風にそよげる菜の花の黄 メタセコイアの落葉重なりふんはりと足裏にやはき径を歩けり 2024年8月26日発行 四六判上製カバー装210頁 装幀:倉本修
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『沖ななも選歌集』
¥2,200
ここに 沖ななも がいます。 第1歌集『衣裳哲学』から第10歌集『日和』まで、沖ななもは、10冊の歌集で3,600首余りの歌を発表してきた。 「個性」から「熾」へ沖ななもの歌を振り返り、読み返してみる。 そのよい機会となることを願いつつ、ここに発刊する。(『沖ななも選歌集』編纂委員会)
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久々湊盈子歌集『非在の星』
¥3,300
冬の夜にまたたく星よ光年の昔に死にて非在の星よ 非在の星は、死してなおその輝きをとどめ、人々を見守っている。混沌とする世界にあって、人はどうしようもなく無力である。しかし、たとえ広大な宇宙の片隅で生きているちっぽけな存在であったとしても、残したい言葉がある。伝えたい言葉がある。いま歌わねばならないという強い思いがある。(本書「帯文」より) 【5首選】 夜の川満々としてさかのぼる黒きうねりを権力と呼ぶ 白雲を浮かべたるまま青空は暮れて紺青やがて深藍 ウクライナ侵攻のあさ香りよきロシアンティーを飲みしか彼は 「いいね!」なんて言ってるうちに足元がずぶずぶ沈む春泥の候 あかあかと日の照るさびしさわたくしに誰も救えぬ手が二本ある 2023年10月15日発行 四六判上製カバー装286頁 装幀:倉本修
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後藤由紀恵歌集『遠く呼ぶ声』
¥2,970
自分の足元が覚束なくて立ちつくす。私はどこへ行こうとしていたのだろう。どこへ行けばいいのだろう。かつて心に抱いていた秘密の花園や夢の岸辺も今は遥か遠くに霞んでいる。遠くで私を呼ぶ声がする。振り返ればそこには私の歩いてきた道がある。そうだ私はここにいる。そしてここで生きてゆくのだ。 生きることに迷ったとき、立ち止まって読んで欲しい。なぜならそこには、現代をしなやかに生きる一人の人間が歌とともにいるのだから。 著者10年ぶり待望の第3歌集。 【五首選】 カレンダー白きまま夏は近づけり 素足で砂を踏むような日々 子を生さぬ幸も不幸もひといきに呑み込む夜の鯉ぞわれらは 遠く遠く呼ぶ声のして振り向けばただ中空にまひるまの月 うちがわをうすく削がれてゆく午後の外線電話またも灯りぬ 水鳥もわれらもほろびしのちの世を池とベンチを照らす光よ 2023年10月9日発行 四六判上製カバー装212頁 装幀:倉本 修
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長野晃歌集『今なら間にあう』
¥2,200
『ギブスベッド』『コーヒーブレイク』『わが道を行け』に続く、第4歌集。 長野晃の短歌は作者の人間が生き生きとしており、時代に対する洞察力もまたたしかである。係累をはじめとするさまざまな人間も社会のひとりとして深くとらえられている。そして何よりもあらゆるテーマが自然体となって結実していることである。(水野昌雄・本書「栞(転載)」より) 【5首選】 ひしめける通勤電車に労働法労組法を揺れながら読む 原爆の投下の時刻近づけりいよよ高まるクマゼミの声 あっけらかんと晩夏の空の青々と心に映る影 連れ合いの叱咤の的なる僕である長生きせよとの声と聞きおりつなく 治安維持法闊歩の歴史読みながら今なら間にあう今なら間に合う 2023年9月30日発行 四六判並製カバー装170頁 装幀:秋山智憲
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濱松哲朗歌集『翅ある人の音楽』
¥2,750
その道は決して平坦ではなく、迷い、逸れ、ときに転がり落ちながらも、昨日より今日、今日より明日はきっと美しい音を奏でると信じて言葉を紡ぐことをやめなかった。歌は自分を、そして人を支え、前に進む力となるから。今を生きるすべての人に読んでもらいたい渾身の第一歌集。 栞:高瀬隼子(作家)・染野太朗(まひる野)・真中朋久(塔) 【5首選】 白鳥を焼くをとこゐて私にもすすめてくれるやはらかい部分 奪はれてもうばひかへしてしまつたらおまへの顔のわたしが笑ふ 感情のすべてが凍る すみ切つた真顔で落花生潰し合ふ にんげんのこゑは背骨を狙ふから削ぎ落したるみづからの翅 後で思へばあれも祠であつたこと雪をあなたは払ひ続けて 2023年6月24日発行 四六判上製カバー装194頁 装幀:花山周子
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八木健輔歌集『銀河の果てに』
¥3,300
第一歌集にして、遺歌集。 若くして不慮の死をとげた最愛の娘さんと、あとに遺されたお孫さんへの切々たる思いが作者の歌の原点にある。挽歌とひと言では括れぬ男の苦悩が赤裸々に綴られている。愛する家族や故郷の佐賀、住み慣れた松戸の高層階からの景観や身の巡りを詠んだ作品に、心温かな一人の男性像が浮かび上がる。上梓を夢見つつ、結局この第一歌集が彼の遺歌集となったことには語る言葉が見つからない。(「ひのくに短歌会」山野吾郎・本書帯文より) 【5首選】 「無花果が今日は三つ」という妻の声に炎暑の朝が始まる 臨終を告げられたりしわが娘隣に孫の産声きこゆ 走り来る孫の仕草にありありと娘(こ)の蘇る春の草原 故郷の宅急便を包みたる佐賀の新聞広げて読みぬ 内臓の一つが突然激怒する青き地球に雪降り積もる日 2023年2月28日発行 四六判上製カバー装/214頁 装幀:倉本修
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田代鈴江歌集『時のながれ』
¥2,750
第一歌集 田代さんの歌の魅力はなんといってもユーモアのある大らかさにある。 家族や友人たちも田代さんの生来の明るさにきっと励まされたり、気持ちがラクになったりしたことが多かったのではないだろうか。(久々湊盈子・本書「解説」より) 【5首選】 若き日に君と登りし愛鷹の山容せまるふるさとの駅 真夜に聞く飛行機の爆音ゆくりなくB29の記憶が甦る 三人子の母であるゆえ三通りの憂いを持ちて梅雨寒の朝 良い意味の鈍感力も身につきてトゲある言葉も笑い飛ばせり 急逝の前日君が吾に見せしやさしき笑顔わすれがたかり 2023年1月26日発行 四六判並製カバー装161頁 装幀:秋山智憲
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市川一子歌集『声に出し』
¥3,300
第一歌集 百円をいれましたよと声に出し無人の店に買う芹一把 内房の市原市に住まいする作者の第一歌集。菜園を耕し、種を蒔き、季節の野菜や花を絶やさぬ暮らし。健康な生活は健全な精神を生む。家族を愛し、地縁を大切に生きてきた作者が手にした豊かな作品世界をゆっくりと味わっていただきたい。(久々湊盈子・本書「帯文」より) 【5首選】 長月の空に見事な虹たちて見知らぬ人と連れ立ちて見る 鼻の奥つんと痛みぬ時として母を諫めき娘のわれは 大阪まで叱られに行く夫を乗せ朝靄のなか駅へと走る かまきりの足につかまり空を飛ぶクレヨンに描く六歳の夢 これもまた殺生ならむと思いつつ小さき花咲く酢漿草(かたばみ)をひく 2022年11月24日発行 四六判上製カバー装212頁 装幀:倉本修
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山下和代歌集『デゼルに乗って』
¥3,080
「デゼル」とはフランス語で翼のこと。著者愛用のクロスバイクの名だ。高知生まれ高知育ちの生粋の「はちきん」である著者は、生来の明るさと行動力で、今日も颯爽とバイクに乗って土佐の空の下を走っている。(久々湊盈子・本書「帯文」より) 【5首選】 看板も標識も目でたぐり寄せたぐり寄せつつ十キロ走る 友に会う時間せまりて走りゆくメロスの約束ほどでなけれど 五十とは生ききし時間の形容に長い短い付けがたき年齢(とし) 玄関をいま出し息子戻り来て「虹が出ちゅう!」と告げてまた行く デゼルとはふたつの翼 マラソンもバレーもやめたわれが飛ぶため 2022年7月28日発行 四六判上製カバー装178頁 装幀:花山周子
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藤島眞喜子歌集『じゃじゃ馬馴らし』
¥2,750
著者第一歌集。 好奇心が強く外向的な著者は、多趣味であり、その多くを自分のものとしてきた。その中でも短歌という言葉による自己表現は、自分自身を見つめ、また家族や他者との関係を再構築するためになくてはならないものであった。(久々湊盈子) 【5首選】 芳醇な香り片手に聴くブーニンさびしき夕べの小さな奢り あくまでも正論に拘るわれが在り 眉月みあげ家路を急ぐ 鋭(と)きこころ持ちたるゆえに涙多き娘はあした花嫁となる 見舞いにと娘の持ち来し杖一対沽券を捨てたる夫の喜ぶ 車椅子思いのほかに御し難くじゃじゃ馬馴らしと夫は苦笑す 2022年7月23日発行 四六判並製カバー装167頁 装幀:倉本修
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立神幸彦歌集『信濃路の朝』
¥3,300
著者第一歌集。 人が人を愛するということはこういうことなのだ、と病む妻への無償の愛を、短歌というかたちで示して下さっている作者に、心から有難うと言いたいと思う。(久々湊盈子・本書「解説」より) 【5首選】 女神湖はふたりのふるさと憂きときも湖面をなでる風に安らぐ 長期戦になるよと言われて八年目、妻との歩み冬の坂道 掃除終えさあ洗濯とつぶやけり老々介護にあわき春の陽 妻の掌をこんなに握りしことはなし病は粋なはからいをする 何年か先は知らねど目の前の今日を越すため妻の手を引く 2022年6月23日発行 四六判上製カバー装252頁 装幀:倉本修
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楠井孝一歌集『アーベントロート』
¥3,300
楠井孝一歌集 『アーベントロート』(第二歌集) 楠井孝一さんは意志の人である。なにごとにも手を抜かず邁進する。十代からの山好きで古稀を過ぎるころには日本の百名山登頂を果たした。スキーは八十代となった現在も現役という。人生の収穫期を迎えた本集でもまだまだ枯れず天下にもの申す気概に溢れている。(久々湊盈子:本書「帯文」より) 【5首選】 熱中症が国を覆へる日の本は亜熱帯にぞなりにけるかも 民主主義の総本山の米英がポピュリズムなる穴に堕ちたり たつた二枚のマスク配布が一国の施策の目玉 政治貧困 モンテローザを黄金の山に染めあぐるアーベントロート今に忘れず 来(こ)、来(き) 、来(く) 、ほい 来(く) る、来(く) れ、来(こ) よと変化するカ変動詞のリズムたのしも 2022年3月1日発行 四六判上製カバー装212頁 装幀:倉本修